院長挨拶


 8年前に江部康二先生の糖質制限本を偶然目にして以来、栄養、食事療法に興味を持ち、代謝の勉強に勤しんで参りました。肥満と糖尿病の治療に糖質制限食を取り入れ、多くの方々の病態を改善させることが出来ましたが、糖質制限に反応しない人も少なからず居り、インスリンだけでは説明が出来ないことを悩んでおりました。

新年を迎えて早々にRay Peat(1936-2022)の生体エネルギー学(バイオエナジェティクス)を偶然知りました。彼は生体の機能と構造はエネルギーに依存すると考えて、食事から如何にエネルギーを得るかを研究し多くの論文を残しました。彼の考えを批評解説するGeorgi Dinkovのブログ(Haidut.me)を読み漁ったところ、糖質(炭水化物)制限食の重大な問題点に気付きました。

植物油(サラダオイル)の普及により、リノール酸の消費量はこの100年で25倍に増大しております。飽和脂肪酸(SFA)や一価不飽和脂肪酸(MUFA)と異なり、リノール酸を含む多価不飽和脂肪酸(PUFA)は燃焼しづらく、脂肪組織に貯蔵されやすいことが分かっています。脂肪組織の脂肪分解による遊離脂肪酸(FFA)の大半はPUFAであり、その上昇は肥満、2型糖尿病だけでなく、非アルコール性脂肪性肝疾患、心脳血管疾患、がんなどでも確認されております。

ミトコンドリアにおける脂肪酸酸化(特にPUFA)では、多くの酸化ストレス(正確には還元ストレス)が生じ十分なATPが産生できないだけでなく、脂肪酸の上昇は全身の組織に脂肪毒性を生じ、小胞体ストレス、炎症、インスリン抵抗性を引き起こすのです。

糖質制限で減らした炭水化物のエネルギーを脂肪で補充することでPUFAの摂取量が増加し、かえってインスリン抵抗性を悪化させてしまう可能性があるわけです。絶食や運動も脂肪分解を促進して病態を悪化させる可能性があります。さらに、脂肪酸酸化ではインスリンだけでなく、エストロゲン、コルチゾールなどのホルモンバランスも障害し、糖の方がはるかに優れたエネルギー源であることが分かりました。

高インスリン血症の肥満やメタボ患者に対して糖質制限は有効であり、今後も継続します。インスリン分泌の少ないやせ型の糖尿病患者に対しては、脂肪分解と脂肪酸酸化を出来る限り抑えて、インスリン抵抗性(特に肝臓による糖新生)を改善しながら糖の摂取量を少しずつ増やしていけるように治療したいと考えています。私たちの食生活に広く浸透した植物油ですが、百害あって一利ありません。まずは、植物油の摂取を中止することが大事です。

 インターネットのおかげで医学情報をいつでも得られる素晴らしい時代になりました。どんな時代であっても、医学は科学でなければなりません。今後も、ドグマやガイドラインに流されることなく、常に科学に裏打ちされた見識を基に診療ができるよう精進して参ります。(2023.4.1

院長略歴


1988年 北海道大学医学卒業

                北大循環器内科入局
      市立札幌病院救急医療部
      旭川市立病院循環器内科
      函館市立病院循環器内科
      新札幌循環器病院 などを歴任
      むらもと循環器内科(2012年9月)
 医学博士号
「Cytosolic localization of beta 3-subunit of Heterotrimeric
GTP binding protein in rat Hearts.」 
Biochem Biophys Res Commun 1995 jan 17;206(2) 799-804

2021年3月 日本内科学会、日本循環器学会を退会

元日本内科学会認定医、元日本循環器学会専門医